ひと口説法-5 猫の恩返し(日蓮宗新聞)
ひと口説法-5 猫の恩返し(日蓮宗新聞)
當山で、彼岸やお盆の施餓鬼会に参加しては、多くのご先祖に、塔婆供養を重ねて来た老婆Sさんは、国道45号線沿いに民宿を営んでいました。
Sさんは、行き交うトラックなどに轢殺された猫の遺骸を見捨てて置けず、丁寧に葬っては當山で塔婆供養をして来ました。幾体もです。
ある冬の寒い日、来山しての事。「お上人さん、今朝、明け方夢を見ました。私が狐の首巻きの様なものをして温もっています。でもよく見ると猫だったのです。」
私はこう応えました。「鶴の恩返しならぬ、猫の恩返しですね。Sさん」
「そんな事があるんですね」
日蓮聖人は、「丈六の卒塔婆をたてて、其面に南無妙法蓮華経の七字を顕しておはしませば、北風吹けば南海の魚族(いろくず)その風にあたりて大海の苦しみを離れ、東風きたれば西山の鳥鹿その風を身に触れて、畜生道を免れて都卒の内院に生まれん」(中興入道消息)
と、卒塔婆供養の功徳を述べておられます。
岩手県布教師会長・善慶寺住職・三浦恵伸
ひと口説法-4 慰霊と復興への道(日蓮宗新聞)
ひと口説法-4 慰霊と復興への道(日蓮宗新聞)
「幽霊を見た」「亡くなった家族に会った」。東日本大震災の被災地では、震災直後から現在までこういった声がよく聞かれます。
ある日、3・11後にできた仮設中学校に赴任した女性からそのような相談を受けました。その校舎の西側に整地されたグラウンドは、かつて震災犠牲者の遺体安置場所でしたので、供養を行う事にしました。
その時に女性と「犠牲者の御霊を追い払うのでは無く、安心を与えるための供養であること。残念の御霊は、子どもたちの未来に後事を托すしか無いが、今の教育は知識の詰め込み偏重なので、御霊が安心するように、子どもたちの魂の育成に心がける」ことを話し合いました。
塔婆を認め、供物と自我偈・唱題・回向の醍醐味を捧げ終わると、その女性から「心と体が軽くなり、楽になりました」と言われました。
この世もあの世も、日蓮聖人のお題目の光と力に依ってこその、安全・安心の道であるとの体信でした。
岩手県布教師会長・善慶寺住職・三浦恵伸
H26.12.10 掲載